怪談について



女の心にはなぜいつも悲しみがあるのでしょう。
あなたはご存じおざるまい。でも聴いてみる気はおありかえ。
お生まれなさらぬ前の世からのこと。たどる糸は愛でおざります。あい。
人の愛というものを。愛に生きる女といふものを。
みなさま。お聞き及びかえ。遠い世にあるみっつの昔語り。
耳明らめてお聴きなされ。




第一演目【音楽と身体で語る】
小泉 八雲「怪談」より

お し ど り



最愛の夫を殺されし妻の怨み、その執念。
さめざめと泣く声が骨の髄まで染み入り、耳にまとわりつく音の記憶。
女の愛の貫徹とは。そのとき、女は愛があっての女となる。
男が消えればその女も死ぬのか。その不可解さ、その怖さ。
日本を代表する物語「怪談」から贈る、ある一人の女の物語。
第二演目【音楽と舞踊で語る】
志賀 直哉

荒  絹



昔々ある山に美しい一人の女神が住んでいた。
女神は美の神で、恋の神で、そうして妬みの神であった。
二人の女と一人の男の物語。美と恋、女と機織り、花と嫉妬。
一人の女の一途な恋が執念に変わる。女神は女の恐ろしさの集結か。
恋の歌と呪いの歌、そして日本舞踊が紡ぐオペラ。
第三演目【音楽とダンスと人形で語る】
折口 信夫

死 者 の 書



平城京に住まい居る中将姫。その高貴な魂は二上山の峰、
入り方の光り輝く雲の上に、荘厳な俤を見る。この世に執念を残し
死んだ飛鳥の時代の大津皇子。その魂が蘇り、女の記憶と寒さに
子と着物を求める。折口信夫の濡れてまとわりつく様な文体と、
概念的な意味作用を経ることの無い幻惑的な世界を奏楽堂に再現する。